・キンゾーの上ってなンボ!!
前野金蔵という、一流企業のサラリーマンが、仕事も家庭もすべてを捨ててゴルフに打ち込む話。
身長もあり男前、女に持てる、と全てがそろっている男がぐいぐい行くという、小池一夫、叶清作コンビでよく描かれる類の物語となっている。
ゴルフという、結局一人プレイをしてるだけのスポーツゆえに、物語的なハッタリをどう効かせるか、に、ヤクザを絡めたり、新開発クラブを絡めたりとの工夫がされている。
この物語の中に登場し、キンゾーと勝負する、ゴルフ場の従業員、川端太一が、後の主人公となる。
・新 上がってなンボ!! 太一よ泣くな
川端太一は、さえない、低身長の、ゴルファーである。4冠プロゴルファー川端留吉の忘れ形見だが、その体格ゆえに、打球が飛ばず、小技を駆使して闘う。
小池一夫、叶清作コンビでは珍しい、さえない主人公が、決定的に劣る飛距離を他のどういう技で埋めていかに闘い抜くかという面白みがあり、超長編シリーズとなっている。
大変面白い。
・新々 上ってなンボ!! 太一よ泣くな
川端太一が、ココまでに覚えたスキルをすべて捨てて、飛距離を伸ばそうとする。
そして、新たな挑戦。
といったところで終わっている。完結。
大変面白いのだが、いろいろと気になるところがあるので散文的に書いていく。
自分はゴルフをプレイしないし、TVで見たりもしないのでゴルフ知識はサッパリであり、実在の人物と虚構を絡めて描かれたこの漫画はどの程度リアルかはサッパリ解らないので、その程度の文章として。
まず、キンゾー編は、良くも悪くも小池一夫のいつもの漫画といった風情となっている。
ので、今回これにはあまり触れない。
太一よ泣くな編は、小池一夫には珍しい努力型主人公が、問題を解決し、新たな問題にぶつかり、というのを細かく描いていく。
ゴルフは、結局は一人プレイであり、それがマッチプレイでもストロークプレイでも基本は同じ。
練習どおりの技を練習どおりのメンタルで出せれば、相手が誰でも結果は変わらない。
それをどうやって物語に抑揚をつけていくか。という部分で工夫が見られる。長尺連載のためずいぶん苦しい工夫もある。
たとえば、上がり調子になったあと、勝ちを意識して崩れて大叩きしてしまう、と言う展開が多い。(定番)
対戦相手の言動や挙動に、プラスマイナスに心を動かされる、というのは毎試合。
失礼な相手、癖の強そうな相手と対峙し、その影響を受け、影響を与え、というのが基本構造。
いい相手ですがすがしくプレイしたりがたまのエッセンス。
無茶なものでは、プレイ中に催眠術的な攻撃を行う敵が何度も現れる。プロゴルファー猿じゃないよ。
またこの展開か、で言えば、コンピュータ管理の室内ゴルフ施設も何度も出てくる。
ゴルフ雑誌への連載であり、床屋や食堂の待合室などで読むにふさわしい、どこから読んでもどこまで読んでもそこそこ一定の面白さ、という作りなので、こうなるのは仕方がないし、それは技術だと思うのだが、それでもまとめて読んだ時の満足感を期待してしまうと、同じネタが繰り返されるのはちょっとツライ。
次に。
物語のリアリティとして、実在の人物を織り交ぜたりしているのであんまり無茶苦茶はできないのだが、それでも催眠術やスーパーショットまではアリというバランスにしてあって、これは絶妙だと思う。
しかし、なまじリアルを感じさせるだけに、催眠術で興が冷めたり、どうがんばっても太一の飛距離では勝負にならないなど、物語の沸点に限界もある。
太一がマスターズで勝ってしまうわけには行かないので、ズルズルと調子を落としたりといった、ある種仕方のない展開があり、それは読者からも先読みが出来てしまう。
このあたり、「一体どうするんだ?」という難関(この場合飛距離が無い)を与え、「小技でがんばる」という面白い展開になるのだが「でもそれで勝っちゃうとリアリティがない」ので「負ける」という、なかなかに屈折した内容になっている。
だからこそ、面白いのだが、その蛇行はつらくもある。
そして新々上がってなンボ!! 太一よ泣くな編は方向が変わる。
この冒頭の見事さはちょっと、ハリウッド映画の巻き込まれ型主人公を思い出したりするが、太一がいきなりヤクザにからまれて否応無く~とゴルフ関係あるんだか無いんだか、そこはさておきグイグイと強引に話を運ぶ。
そんな感じでぐいぐいといった後、マスターズを棄権し、これまでのすべての技を捨て、新たな技をつかった飛距離を手に闘う太一のお話になっていく。
えー。今までの技捨てるの!? いやしかし。飛距離出るの? みたいな悶着をやりつつ。
飛距離を得てしまうと、普通のゴルファーになってしまうので、終わりどころとしてはココを逃がしては無い、という付近で完結する。
もうちょっと話を進めてから完結して欲しい感じではあったが、連載漫画の終了というのは大抵こういう感じになる。ならざるを得ない。
全体を通しての感想としては「ゴルフの試合で物語に抑揚をつけるのは難しいなー」に尽きる。
調子が良い、悪い、崩れる、持ち直す、これしかないんだもん。
これがサッカーならボールをインターセプトするドラマがあるし、野球なら打者と投手の心理戦がある。
対戦相手との直接の攻防があると、なんとかドラマに持ち込みやすい。
しかしゴルフはぶっちゃけ相手が居ても居なくても自分のプレイをするだけ、というのがもっとも良いプレイになるわけで、外乱が天候とメンタルしかない。
すると今までの試合と違う展開、というのがやたらめったら難しい。
「今度の敵はこういう技を使うから、それにどう対処するか」
ではなく
「相手は敵じゃなくてコース」
これを盛り上げるのは難しいと思う。1回だけならいろいろ小技が使えるが、10試合もしたら似通った試合が複数あってもおかしくない。
また、叶清作の作画は緻密で美しく読みやすいのだが、比較的コピーを多用する作風であり、ボビージョーンズ(なんかゴルフの凄いヒト)のキメ顔が劇中何度も何度もアップで繰り返され、グリーンに浮かび上がるので、同じ展開感が目立つ。(原作にもここでボビージョンズを思い出す、とか書かれているんだろうから、どうしようもない)

メンタルのドラマに説得力を持たせるのはとても難しい。
例えば緊張でガチガチの時に、家族をふっと思い出して緊張が解ける、という作劇をしたとする。
毎回使うわけには行かないし、じゃあ逆に家族を思い出せない、いやな事を思い出してしまう、などでパターン化を避けるとする。
これらは全部、内面での事なので、その気になれば作者の意のままの展開になってしまう。
物語はすべて作者の意のままではあるのだが、本当に意のままでは読者は物語に惹かれない。
さすがの巨匠はそれをうまくごまかしつつ大長編にしていて舌を巻く。
こういったゴルフマンガが、この大長編として成立したというのが、まったくもって凄いなと感じる。
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