■憧れ産業とは
この場合の憧れ産業とは「あの業界いいな」と憧れられるような業界の事を、揶揄的に刺す。
漫画家、ゲーム開発、アニメ、映画、TV、アイドル。そんなの。
自分は、今はゲームで食ってるが、その昔、漫画で小銭を稼がせて頂いた事がある。
その時編集者さんと話していて印象に残ったお話。
「食えますかねー」
「いやー。食えるか食えないかで言うと食えないけど、仕事は面白いよ」
ということで、漫画は諦めた。面白いだけでは腹は膨れない。
もちろん、自分が才能溢れる若者だったりしたら「お前なら食える!」とか言ってくれたかもしれないけど、才能はかなり足りない方なので。
自分は結局フツーの会社で会社員の仕事をしてから、ゲーム業界に入った。一応会社だから、食えるかなと思った。(甘かった)
そんなわけで。
憧れ産業は仕事自体が憧れの対象であるがゆえ、食え無くても就労希望者がやってくるような業種を指す。
■憧れ産業の構造
漫画を例にとると。漫画で金を稼いだ事のある人の殆どが、その賃金だけでは食えなかったと思う。
稀にヒットを飛ばして食えた人がいるが、それは何万分の1だろう。
山が高いのは、裾野が広いからだけど、裾野は食えない。
憧れ産業は、その業種に憧れる人が多い為、労働環境がマズくなりがち。
・漫画を連載してくれるなら、タダでも描きたい。
・映画に出れるなら、脱ぐ。
・ゲーム作れるなら、徹夜上等。
そういう風に思う人達も現実に居て、そういう人達で競争が繰り広げられているわけなので。
憧れ産業はそういう競争と屍の上で成り立つ。
まっぴらごめんだ本当。
■憧れ産業の難しさ
「好きこそものの上手なれ」
とは本当に良く言ったもので。
例えば、絵の上手い奴って、本当に絵を描くのが好きだから、ヒマさえあれば絵を描いてる。フィニッシュまで。そういう奴と、普通の奴では、年間の描画枚数に雲泥の差が発生するから、上手い奴はさらに上手く、ヘタな奴はヘタなままになる。1年でエライ差がついてよほどの努力が無ければ二度と埋まらない。
自分の本意とズレる絵の仕事でも、それまで培った技術をぶつける場と考えれば、どんな仕事だって楽しくこなせる。好きな分野とズレるからこそ新しい技術の習得も出来る。
ゲームの企画屋でも、3Dツールいじったり、自分でプログラム組んだりをする奴はわりと居る。俺もそう。企画の本道とは関係なさげに思われけど、その知識は仕事で使える。
世間は常に進んでいるので、立ち止まってると、遅れてしまう。
出来るプログラマは、常に新しい技術に触れてる。
仕事でプログラム組んでるだけでは、いずれダメになる。
このツールで開発が効率化出来る。このやり方で、この手のトラブルは回避出来る。そういってはったアンテナと経験と知識の集積こそが価値。
手抜きと合理化の達人であるには、常に情報収集と自己鍛錬が必要。
漫画描いてる奴なんて、ページ5千円とかの単価で、1枚描くのに1日かかって、スクリーントーン(600円した)をペタペタ貼ってるわけ。(価格は当時のもの)稼げない。
それでも描き終わったら、べつのラクガキ始める。そりゃ上手くなる。
そういう「好きでやってる奴らで溢れかえってる」のが、憧れ産業なのだから、好きじゃなければやっていけない。
しかもその上、ダンピング大会なわけで。
■好きじゃなければやっていけない
好きじゃなければやっていけないというのは、大抵の労働環境が悪い仕事場に付きまとう。
好きでやってる事だから、同業者がダンピングするし、クライアントもそれを前提に単価を決める。
好きで選んだ職業ならば、好きを維持するのも、自分の練度を維持するのも、自分持ちなんだよなー。
これを外に求めるのはオカド違い。
他の人が来ない業種ならば、新人を大事にするけど、ほっといても人が来る憧れ産業は、能力が無いとにっちもさっちもいかない。それは本人次第。
本当にロクでもない。
新人が大事にされない。ロートルも大事にされない。
■新人もロートルも大事にし過ぎても問題が出る。
まぁなんつーか。
新人に対して
「こうすればいいんだ。」
というのはある。手段の一つとして教える。
しかし、ある一定以上の手法は教えにくい。
これが、いわゆる
「俺のやり方を強要する事によって彼の芽を摘むことになるのではないか」
の恐怖。
やり方なんかいくらでもあって、どれが最適かは人によって違う。
1カ月や2カ月で終わるプロジェクトなら、俺流を一度押しつけても、後は好きにやってね、でいいけど、1年以上のプロジェクトだとこれがなかなか。
手取り足とり教える事が、可能性の芽を摘むことになるなら怖くて仕方が無い。
ロートルも大事に出来ない。
だってロートルなんだもん。
知識と経験は積んでいけるけど、センスと体力はどうしてもすり減って行く。
生産量と質だけ見れば、ロートルを食わせる意味がどんどんなくなっていく。
これもほんとカンベンしてほしい。
■そんなわけで
憧れ産業で働くのは、お勧めできない。
ダンピングが激しくて疲弊したり、自分の才能が年齢とともに枯れてったり、なんつーか本当にロクでも無い。
もちろん、普通の仕事だっていいことばっかりじゃない。
善し悪しを決めるのは結局自分。その覚悟を持って、走るしかない。
覚悟が無いならほんとやめた方が得。
覚悟があるなら、やっぱ楽しい事はある。
むしろ、楽しいと思えるから、何とかなってる。
楽しいと思えないならやってられぬ。
だが、皆が覚悟して来てるわけでもない。覚悟の無い奴は他の足を引っ張る。
難儀だ。
■余談
憧れ産業じゃないけど、老人介護の現場なども、好きでなければやっていけないと言う。
好きな人の気持ちがまったく解らないけど、あれが好きでできるとはエライなーと思う。
でも他の例に出した憧れ産業と違って、無くてはならない仕事なんだから、給与を高くすべきだわ。(老人の支払いを増やすしかないけど)
人の善意に期待するのは良くねェわ。老人にしろ、行政にしろ、組織にしろ。
難しい話だなと思う。


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